書体の不平等を無くしたい——現在では使われていない文字も含めて,世界には数百の文字が存在すると言われるが,そのなかで活字やデジタルフォントが開発され,印刷物やインターネット上で日常的に使われている文字はどれほどあるのだろうか。大曲都市は,英国レディング大学でモンゴル文字書体の制作に取り組んだことをきっかけに,ラテン文字の書体デザインと並行して,多言語書体のデザインに力を注いでいる。しかし，日本語を母語とする大曲が,それらの書体をどのように制作しているのか。各文字の構造や，現地での使用事例のリサーチは,書籍や歴史資料，インターネットを頼りにするだけでなく，現地での視察や専門家との協働,カリグラフィーの習得など,膨大な時間と労力を必要とする。本章ではそんな大曲の実践を，彼が実際にデザインした書体とその制作プロセスを交えて紹介していく。